AI活用成功に導く「AI導入アセスメント」とは――数理最適化AI事例をもとにポイントを解説
こんにちは!調和技研で企業様のAI導入をサポートしているPMOグループの丸井です。
「AIの導入を考えているけれど、どこから手をつければいいのかわからない」「開発をベンダーに依頼したいけれど、進め方に悩んでいる」といった課題を持つ企業様は少なくありません。
そこで今回は、AI活用を成功させるための重要なステップである「AI導入アセスメント(※)」について詳しく解説します。
※AIを導入する前の業務整理。実際にAIを業務に取り入れることができるかどうかを検討すること
具体的にイメージしやすいように、本記事では、多くの企業様が取り組まれている業務効率化を目的としたAI開発を取り上げ、既存業務を代替するAIの導入に向けたアセスメントの進め方やそのポイントをご紹介していきます。AIを導入する最初のステップとして、具体的にどのように検討を進めていけば良いのか、この記事がイメージをつかむきっかけとなれば幸いです。
基本的なAI導入アセスメントの進め方
まずは基本的なAI導入アセスメントの進め方を把握しましょう。下図の順番に沿って説明していきます。
1-1. 業務整理(フロー図作成)
まずは現状の業務フローをAIエンジニアがヒアリングしながら、業務フロー図を作成します。質問とフィードバックを繰り返しながら、各関係者がどのような役割・作業ステップを踏んで当該業務を実施しているのかをまとめる作業です。
ここで図に落とし込む対象業務は、以下です。
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前後で発生する業務を含めた全体像を把握することで、導入アセスメント後半の要件整理の際に、業務のつながりを考慮しながら、AIに組み込むべき要件を整理できます。
ここでのゴールは、「作成した業務フロー図が関係者全員の現状認識と合う状態にする」ことです。また、AIの仕組みを検討するうえでは、AIエンジニアに対象業務の理解を深めてもらうことが非常に重要です。AIエンジニアが実際の業務担当者と同程度の知識があれば、より解像度の高い業務の改善ポイントやAIの活かし方を提案できます。
この業務整理でAI導入後の成否が分かれるため、調和技研ではこの工程に約1.5ヶ月程度をかけてじっくり進めていきます。
1-2. 現行システム・データの共有
上記に加え、現状のシステムやデータについてもAIエンジニアによる把握が必要です。システム構成図などの資料があれば共有し、不足があればAIエンジニアとの打ち合わせで確認していきます。システム構成の理解は、AIを導入する際の構成検討や、AIとの連携に際し既存の仕組みに起因する制約があるかなどを確認するうえで重要です。
また、既存システムの把握と併せて、「現状どのようなデータが存在するのか」「どのようなデータを今後整備・提供できるのか」「既存のデータ、今後整備予定のデータの量はどのくらいか」もAI導入の実現性に大きく関わります。AIエンジニアに要望を伝えると共に、用意できるデータについても共有し、理解をすり合わせながら進めていきましょう。
2. AIを導入する業務の決定
通常、AIを導入することで様々な効果を期待できます。しかし、複数の業務にAIを導入したいケースであっても、多くは時間も予算も限られているため、まずはAIを導入する業務をひとつに絞ります。どの業務にAIを導入すればより大きな効果を得られるか、AIを使って何を実現したいのかを、この段階で十分に検討しましょう。
3. AI導入の目的・ゴールの設定
業務の整理やAI導入の優先順位検討が進んだら、AI導入後の具体的な達成目標を設定します。AIは従来のシステム構築とは異なり、「設定や入力に誤りが無ければ、想定通りの結果が出る」というものではありません。設定条件に加え、学習等に与えるデータによってもアウトプットに違いが出ます。
そのため、「このくらいの成果は期待できるだろう」というベースシナリオを用意すると共に、それよりも良くない結果となるリスク(悲観)シナリオ、逆にベースシナリオよりも良い結果となるストレッチ(楽観)シナリオも想定します。
AIのアウトプットには上下幅が出る可能性があることを事前に理解し、AI導入による到達目標は固定ではなく幅をもった設定とすることを把握しておきましょう。
4. AI機能の要件定義
要件を検討する際は、現状の業務(人の手を介して行っている業務)に取り組む際に考慮している条件を改めて一覧化します。尚、要件の大半は、先に行った業務フロー図作成の際に既に表出しされている場合が多いでしょう。
既に出ている要件も併せて考慮条件にカテゴリを振り分けて一覧表に整理し、要件ごとの重要度や業務における考慮タイミング、関連する既存データの有無を追加します。
要件が多くなるほど導入・開発の費用は膨らんでしまいます。まずは目標達成に向けて効果が得られそうな要件を検討し、一覧の中から優先順位をつけて対応していきます。
5. AI導入後の業務フロー・システム構成の確認
AI導入アセスメントの終盤では、AI導入後に業務フローやシステム構成が現状と比較してどのように変わるかを整理します。この時、関連する各業務の担当者とAIエンジニア、AI導入を決める意思決定者(経営層)で認識を合わせておくことが非常に重要です。
6. PoCに進むかどうか判断する
最後のステップでは、PoC(Proof of Concept:概念実証。作成予定のAIが実現可能かを確認する検証作業)に進むかどうかを検討します。本格的なAIの開発は、PoC期間を経た後に改めて開発要否を判断するケースが多いです。
これまでのステップで整理した情報をもとに、このプロジェクトにおいてPoCに進む価値があるのかを判断します。最終判断はお客様である導入企業が行いますが、PoCを含むAIの導入プラン(全体ロードマップ、スケジュール感や作業内容)はAIエンジニアが作成・提案します。
事例から学ぶAI導入のポイント【ステップごとに解説】
それでは実際の事例に沿って、進め方のポイントを解説していきます。
<事例概要> 業種:宅配サービス 業務内容:顧客宅への荷物の配達 導入AI:数理最適化AI(順番・経路判定) |
プロジェクトの開始当初は、お客様企業内でも各部門・立場によって考え方が異なっていたり、AI導入を希望する業務が複数あったりと、自社業務そのものについて整理や言語化ができていない状態でした。これらを段階的に整理していきました。
1-1.【業務整理】現状の業務フローを視認しやすい図にまとめる
まずは業務整理を行うために、今回の事例では業務の大項目として、手作業時の作業ボリュームが大きくボトルネックとなっていた以下の業務を図(フロー図)に落とし込みました。
- 顧客の訪問順序・経路の作成(どの車両が、いつ、どの顧客を訪問するか)
- その後工程の業務である従業員のシフト作成(いつ、だれが出勤し、どの車両に乗るか)
この作業を進める中で、各作業者または事業所によって対応方法が異なるなど、対応基準が定まっていない業務も一部明らかになりました。
現状の業務フローを可視化することで、AIの導入対象となる作業を明確にし、その業務の流れを関係者全員で認識を合わせることができます。さらに、ルール化されていない業務を洗い出し、対応方法を再定義していくことで、業務の平準化にも繋がります。
1-2.【現行システム構成/データの共有】定量的に計測できるデータを揃える
業務に関する情報に加えて、現状使用しているシステムや既存データについても、AIエンジニアが把握することが必要です。既存システムに関しては、システム構成図などの資料を共有いただくとともに、詳細をヒアリングします。ここでシステム面での具体的な要求・要件を明らかにしていきます。
また要件をAIに組み込むには、AIがその判定に使用する定量的なデータが必要です。「これまで情報の入力先を統一していなかった」「手書きのメモも併用していた」という場合には、まずデータの一元管理化が必要です。
また、計測したデータがない、あるいは現場作業員の感覚値に依存しており数値化できていないような条件は、対象外になることもあります。例えば、今回の検討を進める中で「訪問先顧客とのコミュニケーション難易度も考慮して配達順を組みたい」という要望がありました。しかし、これまでに計測したデータがないほか、配達員の感覚値に依存する内容であるためデータ化が難しく、この条件は考慮の対象外となりました。
他にも「現状の熟練の作業者がこれまでの経験をもとに感覚的に判断している」といった業務を反映させたい場合は、定量化を行うか、定量化が難しければ要件として組み入れられないケースもあることを覚えておきましょう。
用意できるデータの質(内容)・量がAI導入の実現、およびAIが達成できる精度に大きく関わります。このステップでAIエンジニアとのすり合わせをしっかり行うことが大切です。
2.【AIを導入する業務の決定】候補の業務が複数ある場合は優先順位をつける
最適化AIの導入においては、作業時間の削減(効率化)や稼働率向上による売上アップ、作業標準化による属人性の排除などのいくつかの期待できる効果があります。
今回整理した業務フローの中では、AI導入の対象となり得る業務は「訪問順序・経路の作成」と「従業員のシフト作成」があり、現状の作業時間がより多く業務効率化効果が高く見込まれる、かつ、定量化できる要件の多い「訪問順序・経路の作成」を優先させることになりました。活用できそうな既存のデータが多かったことも決め手の一つです。
3.【AI導入の目的・ゴールの明確化】目標は上下幅を持たせて設定する
今回の事例では、目標のひとつに「訪問経路の作成業務にかかる時間の削減」を置きました。ここで事前にヒアリングしていた業務状況と類似事例でのAIによる効率化状況などを照らし合わせ、以下のように設定しました。
- ベースシナリオ:作業時間50%削減
- リスクシナリオ:作業時間30%削減
- ストレッチシナリオ:作業時間70%削減
この時のポイントとして、想定と実際に出来上がったAIの精度に乖離を生まないよう、特にリスクシナリオで設定した「作業時間30%削減」はAI導入効果として許容できる範囲なのかを、社内はもちろんAIエンジニアともしっかり認識を合わせることが重要です。
4.【要件定義】要件を一覧化して整理する
目的・ゴールが定まったら、いよいよAIに組み込む要件を検討します。要件が増えるほど導入・開発の費用は膨らむため、まずは目標達成に向けて必要な要件を一覧化し、重要度や既存データの有無などの情報をもとに優先順位をつけます。
今回の事例では、「顧客の指定した訪問時間帯を守る」など、まずは現状の業務(手作業)で訪問順序を組む際にも重要度が高い、かつ既存データが存在するものを中心に優先度を高く設定しました。
採用する要件を決定する際は、開発コストとAI導入後に残る人力作業の手間のバランスもしっかりと考慮することがポイントです。
5.【導入後イメージすり合わせ】関係者各所との認識を合わせる
要件定義が完了したら、最終的な導入後のイメージを関係各所と確認します。
例えば業務の現場担当者とは、AI導入後の業務フローを現場が受け入れ、新しい業務ルーティンを構築できるか。システム部門の担当者とは、既存のシステムとの関係性をどうするか。意思決定者とは、AIを導入することで期待できる費用対効果が見合うかなど、入念に確認することでAI導入を決定した後に齟齬が起きないようにしましょう。
6.【PoCへ進むかを判断】実現性と費用対効果から検討する
PoCに進むかどうかの判断は、主に3つの観点から判断します。
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AIの導入は業務の変化も伴う大きな投資です。どの効果基準、目標をどの程度クリアできる見込みであればAI導入に向けて進められるか、明確な判断基準を設定したうえで判断できると後続のPoC作業もスムーズに行えます。
AI導入成功のカギは「相互理解」と「段階ごとの認識合わせ」
AIの導入検討にあたっては、導入アセスメントの段階を設け、AIエンジニアを交えて現状とAI導入後の将来像を整理していくことがPoC以降のステップの成否を分けます。
検討段階からAIエンジニアと一緒に進めていくことで、よりよいAIの活用方法を模索し、AI導入を成功させましょう。
調和技研ではこのほかにも、AIを用いた業務改善の様々な実績があります。AI導入をご検討の企業様はぜひお気軽にご相談ください。
AI導入コンサル、セミナー実施や、AI研究開発のプロジェクト管理業務に従事。教育事業会社でのコンテンツ作成・運営、製造業での需要予測・需給調整経験などを経て2022年調和技研に入社。今思えば需給調整はAIを導入すれば即解決(?)だったかもしれない。リモートワークの良さを享受しつつも、運動不足が目下の課題です。