社内の暗黙知を可視化するナレッジネットワークでイノベーションが生まれやすい環境に
株式会社インターネットイニシアティブ様
テレワークの普及などを背景に、「社内コミュニケーションが減った」「同僚がどんな仕事をしているのか見えない」「誰に質問すれば良いか分からない」といった課題を感じる企業や従業員は少なくありません。
総合的なITソリューションサービスを提供する株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)様では、そうした課題を解決すべく、暗黙知を含む社内の情報をAIを用いて可視化するツールの開発に取り組まれました。
本格的なAI導入は初めてという同社の経営企画本部 IT企画室の佐藤様と廣川様に、本プロジェクトにおけるPoCまでの裏側や成功の要因を伺いました。
【導入前の課題】 |
【課題解決へのアプローチ】 |
【使用AIエンジン】 |
【導入後の成果】 |
会社の規模拡大やテレワーク普及を背景に社内情報を把握しにくくなっていた
Q. ナレッジネットワーク「WhoKnowsWhat」の開発に至った背景を教えてください。
廣川様:弊社は2022年12月で30周年を迎え、社員数は4,000人を超えています。一昔前は、“このサービスや技術はこの人が詳しい”とか“今あの部署はこんなことに取り組んでいる”といったことが見えて、必要なときに聞きに行ける状況でしたが、今ではそうした情報を把握しにくくなってきています。加えて、コロナ禍で新しい働き方が増えたことで、これまで対面コミュニケーションで得られていた情報も得づらくなってきました。
もともと弊社には、部署や年次に関係なく社員同士の会話の中から新しいものを生み出し、会社を大きくしてきたという一面がありますので、働き方や働く場所、会社の規模が変わっても、人や部署に関する情報にすぐにアクセスできてコミュニケーションやイノベーションが生まれるようにしたい、という想いがありました。
Q. そのような課題に対して、どのようなアプローチを考えたのでしょうか?
廣川様:社内には多くの情報が蓄積されていますが、必要な情報にすぐに辿り着くって職人技のようなところがありますよね。社歴の長い人や“知っている人”はその在処がわかっていますが、年次が若い人など“知らない人”はそもそも欲しい情報がどこにあるのか探すところから始めます。
また情報収集のスキルによって集められる情報に差が出ますし、関係ありそうな資料を集めたあとも、欲しい情報がどこにどんなふうに書かれているのかを検証して、それが本当に必要な情報なのかを整理するのも大変です。
そうした情報把握のプロセスに対してAIのような新しい技術を活用して、膨大な社内情報から必要な部署や社員の情報を誰でも適切に取得できるツールを開発しようと考えました。
Q. 世の中にはナレッジマネジメントツールやエンタープライズサーチなどもありますが、それでは解決できなかったのでしょうか?
佐藤様:ナレッジマネジメントは情報を特定の様式で整理することで到達可能にするもので、ルールや要件定義書の書き方といった“形式知”はナレッジマネジメントに向いています。
しかし、いわゆる井戸端会議から様々なサービスを作ってきた弊社の歴史を鑑みると、イノベーションを起こしやすい情報が潜在するのは、個人の経験や知識、つまり“暗黙知”なのではないかという仮説を私自身が持っていて、これらは様式にまとめることができないので、ナレッジマネジメントツールでは難しいと考えました。
エンタープライズサーチでも、検索時の言葉の揺らぎによって必要な情報に到達できなかったり、同じ要素技術について調べても立場によって使う言葉が変わるのでヒットしないなどの課題があって、これはAIを活用するしかないのでは?という話になりました。
調和技研を選んだ決め手は、実現に向けた技術的な裏付けと“並走感”
Q. 最初にお会いしたのは展示会でした。最終的に調和技研を採用いただいた理由を教えてください。
廣川様:このプロジェクトを任された当時、私自身はAIを全然知らなくて、G検定の勉強を始めつつ、情報収集として展示会で自然言語を扱っている数社に話を聞きました。
弊社としては、課題解決に向けたツールの導入や構築が可能であると同時に、今後ツールを改善するサイクルを回すための技術面・運用面のノウハウを弊社内に蓄積することも目的としていました。既存のAI製品をチューニングして導入する形だと、どうしても実現できない部分が出てきますし、チューニングするにも常にベンダーさんの力を借り続ける必要があります。できるだけ自社の中でAIを育てていくのが将来のあるべき姿だとも思っていたので、コンサルから運用までトータルでサポートをされていて、且つ、技術者育成にも力を入れられている調和技研さんが弊社の希望にもっともマッチすると考えました。
佐藤様:単なる下請けではなく、ちゃんと並走していただけそうな感じが好印象でしたね。
我々は、どれくらい実現性があるのか、という点を重視していました。ふわっと「できます」「とりあえずやりましょう」と言うのではなく、どのくらいの力加減で進んだらどのレベルで実現できるかをこちらが判断できるようにディスカッションしながら共有できることが“並走”だと思っていて、調和技研さんはその点で非常に真摯な印象を受けました。
廣川様:ビジネスとしてどれだけの成果を期待できるのか、ということを社内に説明する立場でもあるので、その点も視野に入れて「こういう技術的な裏付けをもって実現できます」というご提案をいただけたのでとても心強かったですね。
社内文書やメール等のデータをもとに部署の活動や社員の得意領域を可視化
Q. では本プロジェクトがどのように進められてきたか具体的にお聞かせください。
廣川様:このプロジェクトは2段階に分けて進めました。
まずは2022年2〜3月に毎週1回2時間のセッションを実施して、AIについて教えていただいたり、こちらの想いや実現したいことをお伝えして、どうしたらそれを実現できるかを詰めていきました。毎回、お互いの宿題を持ち寄って議論するという繰り返しだったので御社にとっては大変だったかもしれませんが、このセッションのおかげでWhoKnowsWhatとして目指すところが定まり、PoCに向けた準備を整えることができました。
PoCでは3週間ごとにテーマを設けて、サンプルを作っては私たちが実際に使ってみて結果を見ながらチューニングするというサイクルを回しながら、必要なものをどんどんアウトプットしていく形で進んでいきました。
Q. どのようなデータを使って、どのような情報に辿り着けるようにしたのかを具体的に教えてください。
廣川様:WhoKnowsWhatで見えるようにしたかった情報は2つありました。1つは部署がどんな活動をしているか、もう1つは社員それぞれがどんな業務をしていて、どんなことが得意なのか、です。
部署の情報については、今回は各部署が出している年間のアクションプランの資料を40〜50ほど集めて分析して、各部署の特徴を可視化するネットワークをツール上で見られるようにしました。
一方、人の情報は先ほどあった通り“暗黙知”なので、本人が意識せずとも日々のチャットやメールに潜んでいるはずだと考えて、まずは特定のメーリングリストに対して投稿している人の情報を分析してみました。あとは社内の技術勉強会に登壇をしている人たちの情報を集めることで、その人の得意分野が見えるだろうという仮説を立てて、これらの情報をミックスして、その人が社内でどういうことを発信しているかを見えるようにしました。
成功の要因はチーム体制と、PoC前の2カ月間のセッション
Q. 本プロジェクトに取り組む上で工夫したことはありますか?
廣川様:AIプロジェクト推進のノウハウが豊富な調和技研さんにはプロジェクト管理や品質管理、AIプロトタイプ作成、AI可視化部分などをご担当いただき、社内事情に通じている弊社側はデータ選定やAIの検証、チューニングを行うという役割分担をすることで、弊社の要望を捉えながらスピーディーに開発を進めることができました。
私自身は、要望を伝えてできあがったものを確認するのではなく、実際に手を動かす立場として参加させてもらいました。サイクルを回す中で、「ここはこうした方がいい」とか「ここはちょっとイメージが違う」などとリアルタイムで対話ができました。御社でも珍しいケースと伺いましたが、とても進めやすかったですし、その結果として、PoCの最後にきちんと使えるツールを生み出せたと思っています。
佐藤様:作ってもらったものを触るだけでなく、実際に自分で手を動かしたことで身につけられたことは多いと思いますね。
Q. 今回は各部署から資料を集められたとのことですが、他部署から協力を得るのは大変ではなかったですか?
廣川様:広くいろんな情報を集めるのはハードルが高いと思いますが、「この情報なら使えそう」「こういう形でお願いしたら協力してもらえそう」という作戦を最初に立ててから動いたので、狙った情報はおおよそ集められたと思っています。
佐藤様:これについても、PoC前のセッションの中で、どんな情報があったら何ができそうか、効果が出せそうな情報は何か、というアタリを付けられたところが意外と大きかったと思っています。「何でもいいから情報ください」では大体断られます(笑)
廣川様:新しい活動を面白がってくれる方も社内に多いので、依頼する時も、「こういうことを実現したくて、こういう技術的な裏付けがあって」と説明すると、協力的になってくださるケースが多かったですね。やはりそうした技術的な裏付けをもって納得してもらえたことも成功につながったポイントだったと思います。
フルリモートでの開発も問題なく進行
Q. 本プロジェクトの弊社担当者が北海道在住のため、すべてオンラインで進められたと思いますが、進行に不安などはありませんでしたか?
廣川様:フルリモートで開発を依頼するのは、弊社の実績としてもほとんどなく特殊なケースでしたが、距離を感じることもなく一緒に進められたのは有り難かったですね。日々のチャットと、毎週2回の定例ミーティングで、アジャイル的に話し合いながら進めているのですが、今のところ大きなトラブルもありませんし、困ったことがあればすぐに対応していただいています。
佐藤様:御社はコミュニケーション能力が高い人が多いなと思っています。お客様とベンダーという立ち位置ではなく、一緒に作る仲間としてちゃんと技術領域のディスカッションができるという点も大きいです。
弊社も大学の研究室っぽい会社と言われることが多いので、そういう点でも御社と合うのかもしれませんね。
Q. WhoKnowsWhatの今後の展開を教えてください。
廣川様:PoCを経て、どうしたら想定した結果が出せるかを掴めましたので、今後は利用者や利用データを拡大していく予定です。また、部署や人の情報という軸は変えませんが、部署の活動を経年で視覚化したり、部署ではなく課やプロジェクト単位にブレークダウンして、欲しい情報にもっとピンポイントで到達できるようにする予定です。
このWhoKnowsWhatをうまく活用してもらって、もともとの目的である、社内でもっとコミュニケーションやコラボレーションが生まれたり、社内各所の関係がより良くなっていけば、会社の成長に貢献できるのではないかなと思います。
Q. 最後に、今後ほかにAIを活用してみたいシーンはありましたらお聞かせください。
廣川様:言語系ですと、弊社が提供している各種サービスのサポートや問い合わせ対応に活用できたら面白そうだなとは思っています。数値系や画像系も、どういう利用シーンがあるかこれから考えていきたいです。
社内には、AIを使いたいけど方法が分からないという部署があるかもしれないので、私たちがきっかけとなって、社内のAI活用も推進できたらと思います。
佐藤様:今ではAI といえば廣川の名前が挙がってきます。社内でAIについての会話がどんどん生まれるようになって、そのうちAIに関するコミュニティが立ち上がって、そこからまたイノベーションが生まれることを期待したいですね。
調和技研では、お客様企業固有の課題を解決するための、オーダーメイド型のAI開発・導入を数多くご支援しています。
AIで実現したいことなど具体的なイメージがありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせくださいませ。